シン・春夏冬広場

楽しいことになんでもやっていこうっておもってますぜ。

待ち合わせて初めてしたデートは秋葉原だったな

僕が人を好きになって、初めてデートしたのは8年ほど前だった。仕事をしているといつだって、そのことを思い出しては不思議な気持ちになる。僕はいつの間にか父親になっていた。

 

8年前の僕は、仕事に辟易していた。友人からはなんて贅沢なやつなんだとののしられたものだが、周りから期待されるものと、自分がやりたいものはいつだって異なっているものだ。こだわりが強かったものだから、その時は自分が置かれた幸運など理解もせずに、荒廃した日々を送っていた。連日酒に溺れ、意味もなく専門書を買いあさった。専門書を意味もなく勉強しては、解けないと泣き叫び、深夜4時ごろまで眠れない日々が続いた。部屋は荒れ果て、まるで空爆を受けたようなありさまだった。煙草をバカみたいにふかしては、酒をあおる。なんとか今の状態から脱出せねばならない。そう考えるようになるまで、荒れ果てた生活を続けていた。ウィスキーをコーラで割るんだ。3:2くらいで割る。もちろんウィスキーが3だ。ブラックニッカよりも、サントリーの角瓶が癖がなくて飲みやすかった。これが最高にトリップできる。しゅわしゅわをちゃんと残すんだ。それでいて酒の濃さをダイレクトに感じたい。炭酸水でもいいんだが、量が飲めない。嫌なことをすべて酒で洗い流す日々が続いていた。酒を飲まなければ、眠ることが出来なかった。750mlくらいのウィスキーを2日か3日で1本飲み干していた。

 

僕がそんな生活から脱出したいと考えるようになったのは、車の中で栄光のかけ橋を熱唱しながら、帰宅していた時だった。泣き叫びながら歌っていた時だった。ふと不安な気持ちが沸き上がった。僕ってこのまま死ぬのか。何もできないまま、仕事に忙殺され、何もわからないまま死ぬのかって。こんなバカみたいな酒をあおる生活を続けていたら、近いうちに死ぬことになるだろう。その時僕は1人だ。1人で死ぬのか。1人は嫌だ。1人は怖い。僕はなんとかして変わらなければならない。何をすればいいんだ。これまでやってこなかったことをしたらいいんじゃないか?それはなんだ?・・・恋愛か?恋人をまずは作ってみようって、考えるようになった。年齢=恋人いない歴の僕からしてみたら、彼女を作るということは20数年間行ってこなかった一大イベントだった。これが出来れば、何か変わるかもしれない。

 

まず何をしたらよいのだろうか。婚活に行ってみたり、合コンにいってみたり、街コンに参加してみたりした。僕はノンデリカシー人間だった。会に行くのに酒の力を借りていた。酒はいい。頭の回転を速くするだけでなく、口も達者になる。そんなブーストはうまくいかなかった。当然しらふであった際にはまったく相手にされず、むしろ怒りを買ってしまうことが多かった。僕にはその時なぜ彼女たちが怒っているのかまるで理解が出来なかった。彼女たちも会では酒が入り、寛容になっているが、実際にあったときの僕の態度や発言に腹を据えかねたのだろう。僕はそういった女性の女子女子した話し方や、強い口調が心底嫌いだった。正直怖かった。ずばりいうのは勝手だが、場をセッティングし、金まで出している。もう少しだけ、せめて帰るまでは楽しい気持ちでいようよっていつも思っていた。その後連絡取れなくてもいいからって。彼女たちは我慢しなかった。思ったことをはっきり突きつけてきた。なら来なくていいじゃん、なんで来たのっていつも思っていた。それが女性だった。当然付き合うまでに至る人は全くと言っていいほど現れなかった。彼女を除いて。

 

彼女のことは実はあまりよく覚えていなかった。相変わらず酒でへべれけの僕は、彼女が行きたいといっていた秋葉原に連れて行ってあげるよって、返事をしていた。それから何度か連絡を重ねて、一緒に行くはずだったメンバーが都合がつかないと連絡があった。しかし、変わりたいと願っていた僕だ。せっかくなんで行きませんかということになった。僕はいいかげんなやつだった。待ち合わせの場所に遅刻したんだ。とはいえ数分だが。これはいまでもよく言われるのだが、ぎりぎりを目指しすぎた。待ち合わせの場所につくと、ちょこんとかわいらしい女性が座っていた。え。こんなかわいい子だったっけ?と酒に侵された頭を必死に回転させた。待ち合わせの人物は彼女だった。僕は舞い上がったと同時に、冷静になった。きっとうまくいくはずがないって。こんなかわいいんだもんって。せっかくだから、楽しくすごせたらいいなくらいの気持ちで、秋葉原に向かった。

 

秋葉原について、ひとまず昼食をとることにした。そこはきちんと調べていて、牛かつの一二三に向かった。牛かつなど珍しくてよさそうだと考えたんだ。むちゃくちゃうまかった。彼女は気に入ってくれて、ぺろりと食べてくれた。嬉しかった。選んだものを少食だからといって、食べないのは違う。せっかく選んだのだから、うまそうに食べてほしい。彼女も最初はたべきれないかもと言っていたのだが、食べきってくれた。選んだかいがあって、嬉しかった。それから秋葉原を散策し、色々見て回った。秋葉原のメイン通りは当時はエロ系のディスプレイが非常に多かった。初めてのしかも女性に見せてよいものでもなかろうと、できる限りそういったディスプレイがされてない道を選び、いろんな展示や店を回った。彼女は喜んでくれていた。僕はなんだか嬉しくなった。オタクでよかった。それから大きな公園を散策した。場所は秘密だ。その時僕は、かつて出会った女性たちとは違う感覚を彼女から得ていた。すごく安心できるんだ。それにすごく一緒にいて心地よい。これほどのんびりとした時間が過ぎ去ったとここ数年間で感じたことはないものだった。僕には彼女が必要だと感じた。彼女の気持ちをなんとしても、手に入れたい。そんな願望が僕に芽生えていた。実はちょっとだけその日に先走ったのだが、うやむやにした。あぶなかった。あなた先走ったよねと、それもいまでも言われる。ばれていた。

 

何度かのデートを重ねた。不思議なのだが、うまくいくときというのはびっくりするぐらい平然とことが進む。これまでの苦労は何だったのかというくらい、必要な出来事は幸運な現実を引き寄せてくる。あれよあれよいう間にデートを重ねて、告白したいと思うようになったんだ。僕の彼女になってほしいって。これはいまでも覚えている。僕にとって絶望する出来事だったんだ。仕事でトラブルを抱えていた。彼女とのデートの当日、帰宅間際に機材が動かないトラブルが発生した。対処法は僕しかわからなかった。僕は自分を犠牲にした。対処法を伝えて、うまく動作したのを見届けてから、彼女との待ち合わせ場所に向かった。不幸は続き、携帯電話の充電が切れ、待ち合わせの時間から1時間以上過ぎていた。彼女と映画を見る予定だった。風立ちぬだ。奇しくも愛を巡る物語だった。僕は絶望していた。きっと帰ってしまっただろう。コンビニで充電器を購入し、すぐさま連絡した。彼女は待ってくれていた。それも平然と待ってくれていた。映画館につくと、ちょこんと座っている彼女。おかしいくらい平然としていた。嬉しくなって笑ってしまった。お礼と謝罪。それから映画を見た。次の予定の相談はしていなかった。大幅に遅刻してきた僕だ。自分からはいいだし辛かったし、告白することはできないだろうと考え、素直に帰宅することにした。残念ながら、次はないだろうって。悔しかった。しかし、帰宅間際に、彼女が僕の車に駆け寄ってくる。僕が眠れないということを話していたのだが、ホットアイマスクを持ってきてくれたのだった。僕は笑ってしまった。少し歩きませんか。僕は彼女と一緒に少しだけおしゃべりした。歩いて、手を握りながら。そして僕は伝えた。心を込めて伝えてた。生まれて初めてだった。本当に本当に生まれて初めてだったんだ。君のことが好きみたいだ、付き合ってくれませんかって。震えた。でかい図体をした大人が小さくなりながら震えた。のどがカラカラだ。彼女の返事はすぐに帰ってきた。はいって。

 

僕は彼女と付き合うことになった。彼女といるといつも幸せになった。狂ったような勉強はしなくなった。休日は彼女と過ごすために使った。彼女といると眠たくなる。安心するんだ。彼女を抱きしめ、彼女の臭いをかぐ。頭の痛みがそれだけで、吹き飛ぶ。彼女が帰ると頭が痛くなる。その繰り返しだった。メールを送るたびに、帰ってくるのをやきもきしながら眺めた。彼女を部屋に招き入れるためにきれいにし、彼女とデートするために服装に気を付ける。迎えに行くときは法定速度ぎりぎりで向かい、送る時は後ろの車に怒られないぎりぎりの遅さで運転した。彼女と過ごした安らぎを感じたとき僕はいろんな考えを吹き飛ばして、彼女と結婚したいと考えた。付き合い始めて1か月も立っていなかったと思う。いろんなことが不安だったが、彼女を手放したくなかった。僕には彼女以外ない、そう考えて、結婚を前提に付き合ってほしいと伝えた。さすがに震えた。人の人生がかかった決断だ。この際僕の人生の勘定は入ってない。しかし、その判断は今でも間違っていなかったと考えている。

 

それから何度かのデートを重ねて、プロポーズを行い、結婚するに至った。僕は彼女のおかげで、いろいろなことを学び、人間らしい生活を得ることが出来た。結婚するまでにもいろんな難局はあったが、些末な問題だった。僕には彼女への愛があり、彼女からの愛さえあれば、それでよかったのだ。それ以外はたいした問題ではなかったのだった。悩んだ時期もあったが、彼女を愛していれば、愛されているならばどうでも良いと気づいた。おかげさまで、僕は父親になった。父親になったというのは制度上の話だ。僕は彼女からいろいろなことを教わりながら、また教えながら夫婦になったように、彼女と共に学びながら、父親になっていくのだろう。彼女と共にあれば、僕はきっと父親になれる。

 

僕は彼女に救われた。彼女を幸せにしたいと思う。

 

 

まった今度をおっ楽しみに~。ばぁい。