シン・春夏冬広場

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女性にとっての戦争を繊細な感情表現で小梅けいと先生が描く 戦争は女の顔をしていない

小梅けいと先生との出会いはとあるR指定商業誌だ。女性の感情表現が豊かで、非常にお世話になった。たぐいまれな才能を有していたと記憶している。漫画家の先生になる場合に、こういった同人誌や商業誌で腕を磨いて、名を広めてその後活躍されることはよくある。そうした作品を初期から知れるのは、実は誇らしかったりするから不思議。

 

次に出会ったのはとある有名なラノベ作品の漫画化だ。『狼と香辛料』という。実は原作のラノベはすべて読んでいた。アニメもすべて見た。そのため非常に驚いた。え!?あの小梅けいと先生がなんとなんと僕の大好きな『狼と香辛料』を描いてくれるんだって!非常に心が躍った。狼の化身であるホロと行商人であるロレンスの果てない旅を描いた本作品。天真爛漫なホロのころころと変わるかわいらしい感情の機微と長年生きてきた化身としての残虐性を見事に描いていた作品だった。なによりそれに振り回されるロレンスの表情豊かな様子が見ていて楽しかった。

 

さて、前置きが長くなった。そんな小梅先生が渾身の作品を描き上げたと思っている。この作品は非常に問題作だと思うし、僕らが知らない戦争。しかも戦争に従事したソ連の女性を描いている。その作品に関して紹介したい。

 

※見ていて気持ちの良い描写ではありません。もしそういったものが苦手なら、ここまでにしてください。閲覧注意です。

 

歴史的背景

第二次世界大戦【1939~1945】のうち、ナチスドイツとソビエト連邦間で起きた戦争である。1941年6月~1945年5月の間の出来事。独ソ不可侵条約が締結されていたのにも関わらず、ドイツ側の奇襲攻撃で開戦が起きた。初めはソ連領での戦争となった。結果的にはソ連軍が勝利を収めたもののソ連軍の被害は甚大だった。軍人・民間人合わせて2700万人にも上る。被害が甚大だった背景として、ナチスドイツがイデオロギー戦争と考えていたためと言われている。ソ連という社会主義国家の破壊を目的としていた。

戦争は女の顔をしていない より引用し著者が改廃した

 

戦争は女の顔をしていない

 

本作は女性記者である作者と従軍していた女性たちの対話形式で物語が進行する。すべての物語に迫力があり、僕らが知らない生の戦争を語っている。しかしながら、どの女性もみんな望んで戦争に従事している。ある人は無理やりついてゆき、ある人は上官に訴えかける。そのぐらい激化した戦争だったんだとわかる。戦争を続けるために女性も志願した。

 

強烈に印象に残っているシーンが3つある。1つは女性として従軍した際に周りの人たちから、君たちとは絶対に結婚したくないといわれ、母親からもし負傷してしまうくらいなら、殺してしまってください。女の子が不貞にならないように。というくだりが強烈に残酷だ。帰還した娘にかける親の言葉なんだろうかと耳を疑いたくなる。戦争でPTSDになり、さらに周りから心ない言葉を投げかけられる。このシーンを見て、強烈すぎて吐いた。

 

2つ目は月もののシーンである。垂れ流しながらの行軍を余儀なくされる。そして渡河【川を渡る行軍を指す】の際に爆撃があるのだが、その中でもとにかくその血液の跡を洗い流すために、我先に川に入る女性たち。どんどん爆撃で命を落としていくが、それよりも恥ずかしいと思われる状態で過ごすことに嫌悪する女性たち。目の前がぼやけてくる。

 

3つ目はこんな花の中で死にたいと思ったという心理描写だ。泥の中で死にたくないというセリフの後に強烈に穏やだが、残酷で奇妙な心情を正確に描写している。あまりに強烈な対比表現だったためぞっとした。

 

女性たちは終始自分たちが従軍したことを誇りに思っている。ある女性は初めに人を殺めることに抵抗があるが、次第にそういった感情が希薄になっていく。記者の女性は、その過酷だった状態や残酷な状況に関して涙する。しかしながら、対話している女性たちにはなぜ女性記者が泣いているのか理解できない。その描写を見て強烈に胸が締め付けられる。

 

こうした難しいながら、考えさせられる作品だ。原作も読んでみたいと思う。2015年ノーベル文学賞を受賞している。戦争に関して自分の意見を書くことは難しい。単純には割り切れない。愛する人を奪われ、尊厳を踏みにじられたのが自分だった場合を考えてしまう。漫画自体もそういった描写はない。淡々と事実を克明に示している。自分で読んで考えるものだと思う。ぜひお試しを。

 

まった今度をおっ楽しみに~。ばぁい。