シン・春夏冬広場

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【書評】戦争は女の顔をしていない

※本内容は戦争を扱っています。気持ちの良い表現ではありません。閲覧注意です。

 

僕らは、戦争を知らない。そればかりではなく、僕らは日本の戦争しか知らない。第二次世界大戦、日本はドイツ、イタリアと同盟を結び、三国同盟を中心とする枢軸国陣営とイギリス、ソビエト連邦、フランス、ポーランド中華民国、オランダ、ベルギー、アメリカ合衆国、オーストラリア、ブラジル、ギリシャおよびその植民地の連合国陣営との世界大戦だった。

 

しかし、僕らが知っている世界大戦と言えば、ナチスドイツのアウシュビッツ監獄の話であったり、この世界の片隅にで代表される原爆、風立ちぬに代表される零戦といった断片的なものしかない【はだしのゲン火垂るの墓水木しげるなど漫画作品が多い】。当然ながらそれは自分の情報収集が不足しているのかとも思うが、実際ラジオなどでも終戦記念日の内容と言えば日本の戦争に焦点がおかれることが多い。偏った情報は、自分の視野を狭くする。実際何が起きていたのかを少しずつでも知ることは必要だろう。

 

これは何も我々に限った話ではない。今回紹介する戦争は女の顔をしていないの中でもフランス人記者がソ連の戦争に関して尋ねるシーンがあるが、フランスにとっては第二次世界大戦よりも第一次世界大戦の方が被害が大きく、そちらが話題になることが多い。またほかの国のことに興味はあってもなかなか知ろうとする機会がないのが、実情ではないだろうか。

 

アウシュビッツに関して知りたい場合はこちら【白黒とカラーを用いた名作】

 

 ヒトラーの最後の12日間を描いた映画【俳優が非常に似ていることで話題になった】

 

はじめに

さて、なぜ僕が今回戦争を取り上げるに至ったのかを書かねばならない。突然戦争を扱うなんて、一般人である限りはそれなりの理由が必要だ。僕が今回の独ソ戦争を取り上げるに至った背景は以下を読んでほしい。

 

www.akinaihiroba.com

 

さてまったく意図していなかったのだが、今回NHKの100分de名著にて、戦争は女の顔をしていないを取り扱うに至った。こちらはロシア文学としての本作品と、時代的な背景、その書評を取り上げている。広く浅く知りたい場合は、本放送を見るのが良いだろう。冊子も出ているので購入して読んだ。放送の内容と被る部分もあるが、伊集院さんの鋭い視点などは盛り込まれていない。番組と冊子はまた別の魅力がある。

 

www.akinaihiroba.com

 

 

さて、僕はそんなこんなで、戦争は女の顔をしていないの原作を読みたいと考えるに至った。そして、せっかくならその背景も同時に学んでいきたいと。こういった自分の専門とは違うものを学習するときは、学ぶと決めたらその時には自分の満足いくまで学んだ方がいい。こういったことを学ぶ機会はそうそうない。きっとこれ以降数年は戦争というものに触れる機会は訪れないだろう。個人的な意見に過ぎないが、何かを学ぶ機会というものは、その時に一定以上学びをつかみ取らないと無駄に終わってしまうことが多いと考えている。なので、自分の満足がいくまで学んだ方がいい。できたら何らかの形でアウトプットすることを勧める。

 

歴史的背景

第二次世界大戦でもっとも苛烈な戦場はどこだかご存じだろうか。想像通り、今回取り上げる独ソ戦争である。特にソ連の被害が尋常ではなかった。ソ連では2700万人【軍人・民間人】もの人々が戦争で命を落とした。原爆が落とされた日本が300万人【軍人・民間人】であるから、文字通り桁が違う【日本の場合は何世代にも渡っていまだに苦しんでいる人がいることを踏まえると、こうした数値で人の営みを割り切るのは非常に難しい】。

 

これほどまでにソ連側の被害が大きかった理由はいくつかある。

 

ナチスドイツがイデオロギー戦争『世界観戦争』と捉えていた

ナチスドイツは捕虜を虐殺した

ソ連では大規模な粛清が戦争前に生じていた

ソ連独ソ戦争を『大祖国戦争』と捉えていた

ソ連側は敵前逃亡を許さなかった

ソ連側は戦争が始まるのに気づいていたが対応が後手に回った

 

などがあげられる。『世界観戦争』とは絶滅戦争【相手を絶滅させる】を意味しており、容赦をしないというものだった。ソ連側も対抗し、国民の士気を高めるためプロパガンダ【政治的な広告:欲しがりません勝つまではなど。】ポスターをいたるところに掲げ、スターリン自身が兄弟姉妹たちよと演説を行い、語りかけた。情報統制もあり、いわゆる身内を告げ口する魔女狩りのようなことも行われていた。また戦争前の粛清がもっとも影響が大きかったといわれている。軍のトップや要職、重要な人物を粛清してしまった。そのためかなり骨抜きになった状態で、しかも同盟を結んでいた、ドイツ側の奇襲という形でモスクワ付近で戦争が始まってしまった影響が大きいと考えられる。

 

余談だが、ファシズムとはイタリアのムッソリーニの政党ファシスト党から来ているものであり、ナチスはナチズムだ。しかしながら、両者を合わせてファシストという言い方がされることが多い。

 

 

戦争は女の顔をしていない

本題である戦争は女の顔をしていないを読んだ。この本が問題提起していることがいくつかある。そのどれもが素晴らしいため、ノーベル文学賞を受賞するに至ったと考えられる。

 

・証言文学という新しい文学を作り上げた:単一の意見ではなく、多声性

・男性と女性の物事のとらえ方の差

・女性の話を聞き取ることで、戦時に何が生じていたのか的確にとらえた

ジェンダーの問題提起をした:男性と女性の扱いの差

 

個人的には以上の4つが特に重要だったと考えた。証言文学というのは、つまり聞き取りである。ソ連ペレストロイカによって、戦後言論の自由が保障されるようになった。そのため、当時は語れなかったがといったことや、検閲によって削除されてしまった部分などが大きく修正された。こうしたことは一見でたらめな内容を示しているように思われるが、互いの声や意見で補完しあい、結果的に精度を高めあうことになる。違う人から同じようなことを何度も聞かされるといった具合だ。つまり、当時を知る文献にない重要な手掛かりは人の証言による【言論の自由が認められないような場合は特に、政府の公的な文章から削除されている可能性が高いため】。

 

男性と女性の物事のとらえ方の差は、非常に興味深い。自分にも当てはまることだが、男性は客観的にものごとを見すぎる。誰もかれもが同じことをいい、当時の戦争や作戦の名前を列挙する。しかしながら、こうした内容というのは当時の様子や感情を思い出すためのツールにはならない。女性の当時の様子や自分の感情、周りの考え方などを、正確にとらえて表現するというのは、やはり学ぶべき内容である。

 

女性の声を聞き取ったことで、それもアレクシェーヴィチさんも女性、当時の生々しい戦場の様子や、その残虐性、恐ろしさといったことをありのままに表現されたものになっていた。当時の女性と今の女性にも共通する部分があり、おしゃれは我慢という内容が、半世紀近く前からともするともっと以前から女性の共通認識としてあるとわかったのは非常に面白かった。

 

ジェンダーの差別に関しても的確にとらえられていた。すべてにおいて、差が生じている。戦争に志願して向かうことを拒絶され、戦争に従軍した女性とは結婚したいものなど存在しないと否定され、親からも不貞になるぐらいなら殺してしまってくれと言われ、男性が表彰される中、女性は集合住宅でひっそりと貧しく暮らしていく始末。こうした問題は、ソ連だけではなく、日本や世界で当然のように生じている問題なんだと改めて痛感する。そうしたちっぽけな人【ロシア文学の伝統的な表現】へきちんと目を向けた作品。

 

最後に

あまりにも生々しい。ある程度覚悟して読む作品だと思う。読んでは涙をぬぐい、読んでは涙をぬぐいといった作品だ。仲間を守るためだとしても、泣き出しそうな赤子を殺す女性兵士の気持ち。目の前でドイツ兵に子供を殺され、最後の1人を殺されるくらいなら、自分で殺した母親の気持ち。鉄塔にたたきつけられた赤子の様子。そして、女性の従軍の苦しさやしかしながら、そうした中にある恋愛や互いへの果てしない愛。これほどまでに文章を読んで感情が揺り動かされることはなかった。初めて本で泣いた。

 

 

 

まった今度をおっ楽しみに~。ばぁい。