シン・春夏冬広場

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【マンガ】メダリストが持たざる者の心情に的確に触れていて震える

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本の表紙が非常にきれいで、目を引いていた。フィギュアスケートの漫画はこれまでも何種類か出ていた。ブリザードアクセルなどがわかりやすく、その手のたぐいの漫画だろうと高をくくっていた。フィギュアはジャンプがあってなんぼだよねという素人考えだった。そのためブリザードアクセルは4回転ジャンプに関する漫画で、わかりやすくはあったが、フィギュアスケートの本当の難しさや厳しさというものには触れてはいなかった。

 

たまたまマガジンポケットで無料で読めたため、読み始めたのだが、気づいたら朝になっていた。そのくらいのめり込み、結局漫画も全巻購入した。現在も連載している漫画だ。あくまでもフィクションではあるのだが、選手としての葛藤や苦しみが適切に表現されていて、増田正人先生を彷彿とさせる迫力のある作品だった。何度も何度も涙を流しながら、読みふけってしまう。もし本人にフィギュアスケートの経験がないのだとしたら、綿密なインタビューを行っていたに違いない。経験があるのだとしたら、自身の体験に近いものなのだろう。経験していないと出てこない表現が、随所に現れている。

 

 

持たざる者の心情を的確に捉える

主人公は結束【ゆいつか】いのりと明浦路 司【あけうらじつかさ】先生の2人だろう。あくまでもいのりの成長を見守っていくスタイルで物語が進行しているが、2人の人生がかかっていることが随所あらわれており、フィギュアスケートというのは、表に出てくる選手にばかり焦点が当たるが、裏方であるコーチの役割が非常に大きいことが表現されている。そのため、主人公は2人なのだと考えられる。

 

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メダリストより引用

いのりは活発な子供ではなく、おどおどした印象がある少女だ。自分の意見を押し殺し、親から期待されず過ごしてきた。いのりには姉がおり、姉の影響でフィギュアスケートをやりたいと思っていた。姉はうまくいかず、スケートをやめてしまう。親としては幼少期の青春時代をフィギュアスケートでだめにするのではなく、普通の子として成長してほしかった。しかしながら、何1つ誇れるものがないと考えているいのりはスケートしかなかった。自分が誇れるものに挑戦したいそんな切なる願いをはじめから全力で表現されている。正直泣いた。何度も泣いた。

 

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メダリストより引用

 

一方コーチである司は中学からフィギュアスケートの道に進む。彼は環境に恵まれず、選手としてスタートするのが遅かった。しかしながら、彼はその執念からアイスダンスの選手になり、全日本に出場する選手にまでなった。

 

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メダリストより引用

司先生といのりはどこか似ているところがある。自分に自信がない。しかし、フィギュアスケートに対する執念は誰よりもある。この執念があるというのは漫画の中でも表現されているが、ラグビー選手だった僕としては最も大切なものだと思う。才能のある選手は多いが、最後に残るのは執念がある選手だったりする。この業界で飯をくっていくんだという覚悟がないとやはり選手として生きていくことはできない。この表現からやはり作者である、つるまいかだ先生は何かの選手だったのではないかと思う。もしくは漫画家や研究者だとしてもいい。同じことだ。ただ、選手に対する理解が非常に深い。

 

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メダリストより引用

結果的にはいのりはメダリストを目指していくことで、母親を説得することに成功する。母親との和解が鍵だった。母親はいのりに自信をつけさせたかった。いのりに対する他人の評価を気にしすぎるあまり、いのりの願いとは逆のことをしてしまっていることに気づく。そうした出来事は漫画の話の中だけではなく、問題になっている。このような互いの心情に対する表現が適切だ。そのため、非常に迫力が生まれている。

 

選手としての焦りや潔さが適切に表現されていて迫力が半端ない

 

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メダリストより引用

 

母親が挑戦せずに、スケートの楽しさを知る方がいいと考え、司先生に構成を変えるようにお願いしたシーンだが、いのりがメダリストになりたいからと親を止める。勝負の世界の厳しさをこの年で語っている少女。そのギャップが非常に迫力があるが、しかしあるいは現実世界でもこのようなことが日々起きているのではないかと考える。選手としての生き方というのは選択の連続だ。僕のようなのほほんと生活していた選手とことなり、最前線の人は常にこうした選択を日々迫られている。おおきく振りかぶってという高校球児の漫画で、誰の元で指導を受けるのかということで、優勝が狙える高校に転向する球児の話が出ている。このように究極の選択を常に迫られる。

 

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メダリストより引用

 

そのことが的確に表現されている部分がある。彼女が2パターンの構成のうち、この中ではジャンプを飛ぶか、スケートの構成精度を高めるかという選択肢だった。その決断を司先生は自分で行うことになれるように促している。酷なようだが、僕も高校から大学まで続けるのか、大学から社会人まで続けるのか、続けるとしたらどのようにしていくべきなのかということを選択してきた。選手として生きていく以上特に個人競技である場合は、この選択が明暗を分けていく。その決定を他人にゆだねるなということだ。

 

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メダリストより引用

 

そして、やはり勝負の世界。構成の中でミスをし、その中でミスを減らすために挑戦をやめるべきか、それとも果敢に攻めていくのかということを決める競技中の選手の心情を表現している。まさに恐怖だろう。ミスをしないようにというのは、かなり委縮する。結果的にこの女の子は挑戦者なのだという気持ちの切り替えを行い、この後の完走を果たすが、こうした各競技のシーンのそれぞれの葛藤を描いている漫画はこれまでなかったように感じた。

最後に

漫画メダリストはこれまで読んできたスポーツ漫画の中で、トップクラスに面白い漫画だ。選手の心理描写や葛藤、コーチと選手の関係性やその重要性を認識するドキュメンタリーに近い漫画だろう。誰がモデルになっているかはわからないが、モデルがいるような気がしてならない。そうでないと、ここまで適切な表現というのは正直できない。緊張のほぐし方から、子供のように見えないような決断や決意。そして積み重ねていかなければいけないことのその先の見えない絶望感や潔さなど決して素人で表現できるものではない。熱い漫画と描かれていたが、僕はここまで残酷なスポーツの世界を適切に表現しているのはいままで見たことがない。そのくらい細部にまで迫力がある一押しの漫画だ。

 

ぜひ試してみてください。読むときはハンカチを忘れずに。ずっと泣きます。

 

まった今度をおっ楽しみに~。ばぁい。