シン・春夏冬広場

楽しいことになんでもやっていこうっておもってますぜ。

青空

青空を見ると死にたくなる。なんて今日は美しい日なのだろう。あぁ僕が死ぬときは、こんなきれいな日で、きれいな気持ちで、そしてあぁ僕の人生は楽しいものであった。そんなことを言いながら、死にたい。

 

滑落してきそうなほどうっそうとした白い雲。風が吹くたびに流れていく雲をじっと眺めながら、漠然と死にたい気持ちになってくる。子供の頃の情景に駆られ、なんだか切ない気持ちになってくる。小さい頃はもっと白くて大きな雲だったような。そんなことをしみじみ思いながら、傍らに寄り添ってくる死。

 

一見矛盾しているかのようなそんな状態がいい。死ぬときは明るくなくっちゃいけない。暗いのなんてまっぴらごめんだ。誰かがおいおい泣いて、死なないでぇなんて。そんなものは嫌だな。そっと周りを見つめて、みんなにこにこしていて、それでもって青空で、でっかい入道雲。光がぱって差し込んで、まるで僕を迎えに来たかのような光。そんな情景を見つめながら、布団に横たわりながら、そっと息を引き取りたい。

 

息を引き取る間際なんて、小さいころに祖父の家にいってスイカを食べた思い出や、蛇にびっくりしたこと、犬と川や海で遊んだことを思い出したい。ゴールデンレトリバーを飼っていたんだ。彼女は泳ぐのが好きだったが、前足をどぼんどぼんどぼんって。大きいしぶきをあげながら、懸命に楽しそうに泳いでいた。彼女は僕より先に死んでしまった。悲しくはなったが、泣けなかった。泣けなかったことを彼女に謝った。そっと触れた彼女は冷たかった。

 

トイプードルを飼っていた。彼は男の子の癖に甘えん坊だった。ちょうど小さな熊のぬいぐるみのようだった。自分がかわいいってことがわかっているんだ。だから、自分がもっともかわいい姿を僕にみせにきた。小さい子供のように、ちぎれそうなくらいしっぽを振りながら、毎朝僕を起こしに来ていた。僕がずっと寝ているもんだから、起こすのをやめて、ちゃっかり布団で一緒に寝始める。そんな彼も僕より先に死んでしまった。彼の死に際には会えなかった。心は泣いていたが、涙は出なかった。なんでドラマや漫画では泣けるのに、肝心な時に涙が出ないんだって、自分に激怒した。それでも涙は出なかった。泣くことを拒否していたのかもしれない。

 

祖父が死んだときも泣かなかった。ちょうどきれいな青空だった。母と祖母は泣いていた。いとこは死を理解できていなかった。死に目には会いに行けなかった。心残りだが、仕方がない。祖父と海にいったこと、囲碁をいっしょにやったこと、ものを作る楽しさを教えてもらったこと、本当にたくさんあるはずなんだけど、ほんのわずかなことしか思い出すことが出来ない。こんなことなら、もっといっぱいくればよかったと、そんなときばかり、都合の良いことを考える自分を恥じた。

 

きっと祖母、父、母、兄、妻の死を僕は看取ることになるだろう。もっともっと多くの死を目の前にすることだろう。友人も何人か死んだ。死は目の前に転がっている。恐怖で眠れなかった時期もあったが、いつのまにか慣れてしまった。それどころか、死を楽しみにするようにもなってしまった。人生最後に知ることが出来る死というものが、どんなものであるのか、ちょっとした好奇心が芽生えている。

 

だから青空のもといろんなことを思い出しながら、楽しかったことを思い出しながら、いい人生だった、思い残すことは何もない、できれば妻と一緒に死にたかったそんなことを言いながら、死にたい。

 

 

まった今度をおっ楽しみに~。ばぁい。